幼稚園の園舎敷地に隣接する土地をその運動場として使用するためにされた賃貸借が借地法一条にいう「建物ノ所有ヲ目的トスル」ものに当たらないとされた事例
借地権存在確認請求本訴、賃借権不存在確認等請求反訴事件、最高裁平4(オ)1878号、平7・6・29一小法廷判決、破棄差戻
一審浦和地裁越谷支部平元(ワ)264号ほか、平3・2・28判決、二審東京高裁平三(ネ)923号、平4・7・14判決

 本件訴訟は、幼稚園の運動場用地の賃貸借について、借主であり幼稚園の経営者であるXが、本訴請求として、借地権の存在確認を求めたのに対し、貸主であるYが、反訴請求として、賃貸借の終了を理由に本土地の明け渡し等を求めた事案である。一審、原審における主たる争点は、(1)右賃貸借が建物の所有を目的とするものか否か、(2)右賃貸借の存続期間が満了しているか否か、(3)Yの更新拒絶に正当事由があるか否か、である。
 一審、原審(高民45・2・134判夕822・264)とも、(1)を積極に解し、本件賃貸借は建物所有を目的とするもので借地法の適用があるとした。その上で、一審は、本件賃貸借の存続期間は普通 建物の所有を目的とするもので20年であって、Yの更新拒絶には正当事由が認められるから、本件賃貸借契約は平成元年3月末の期間満了をもって終了したと認定し、Yの明け渡し等を求める反訴請求を認容した。しかし、原審は、本件賃貸借の成立に当たり20年以上の期間が定められたと認めるに足りる証拠はないから、本件賃貸借に期間は借地法2条1項により30年となり、原審の口頭弁論終結時には本件賃貸借の期間はいまだ満了していないとして、原判決を取り消した上、Xの借地権確認の本訴請求を認容し、Yの反訴棄却した。
 本判決は、右(2)、(3)の論点については判断を示すことなく、(1)の本件賃貸借が建物の所有を目的とするものか否かについて、一審、原審とは異なってこれを消極的に解し、原判決を原審に差し戻したものである。
 すなわち、(1)の点について、原審は、本件土地は幼稚園の運営にとって不可欠の土地であり、貸主側もこれを認識して本件賃貸借契約を締結したと認定した(ちなみに、本件土地を返還した場合には、xの幼稚園は、設置基準上必要とされている運動場の面 積を有しないことになる。)。その上で、原審は、本件賃貸借は、本件土地そのものの上に建物を所有することを目的とするものではないが、隣接ノ園舎敷地(X所有)における建物所有の目的を達成するために、これと不可分一体の関係にある幼稚園運動場として使用することを目的とするものであるから、借地法の趣旨に照らし、同条にいう「建物ノ所有ヲ目的トスル」ものというべきであると判示した。
 これに対し、本判決は、本件土地がXの幼稚園経営の観点からすれば園舎敷地と不可分一体の関係にあるあるとしても、XY間にこれを幼稚園の運動場としてのみ使用する旨の合意が存在し、現実に運動場以外の目的に使用されたことなはく、本件賃貸借の当初の期間が2年と定められ、その後も、公正証書叉は、調停により、期間を2年ないし5年と定めて更新されてきたなど、当事者間の合意の内容、本件土地の現実の使用状況、賃貸借の更新の経緯に照らすと、本件賃貸借は建物所有を目的とするものに当たらないとしたものである。
 ところで、借地法一条にいう「建物ノ所有ヲ目的トスル」とは、当該土地賃貸借契約の主たる目的が建物所有にある場合をいうとするのが判例(最三判昭42・12・5民集21・10・2545、本誌503・36など)・通 説である。しかし、具体的な事案において、建物所有の目的があるか否かが問題となることも少なくない。その一つが、本件のように、借地上には建物がないが隣接地に建物がある場合である。これを次の三つの場合に分けて、公刊された下級審判例を幾つか検討してみよう。
 1 隣接地を当該借地の貸主から借りている場合(すなわち、当該借地と同一人から借りている場合)
 (1) 大阪地判昭26・6・27判タ16・57(工場の存在する借地の隣地に、荷揚げ・荷積みのために賃借した土地について、借地法の適用を肯定)
 (2) 東京地判昭55・1・30本誌969・87(建物の存在する借地の隣地に、同土地と公道を結ぶ通 路として賃借した土地について、借地法の適用を肯定)
 (3) 東京地判平3・11・28本誌1430・97(タクシー会社の事務所等の存在する借地の隣地に、車庫、駐車場として使用する目的で賃借した土地について、両者が利用面 で不可分一体であることからすれば、事務所等の存在する土地の借地期間が存続する限り、車庫、駐車場部分の賃貸借契約も継続されるとの合意があったと認定した)
 2 隣接地を別の借主から借りている場合(すなわち、当該借地の貸主と隣接地借主が異なる場合)
 (4) 東京地判昭52・12・15本誌916・60(「丸井」の仕入れセンターを建設するため甲から甲地を賃借するとともに、乙から甲地と公道との間に介在する乙地を賃借し、公道から甲地ヘの進入路、駐車場、物品置場として使用。乙地について、借地法の適用を肯定)
 (5) 東京地判平2・5・31本誌1367・59(事務所用建物等の敷地として甲から甲地を賃借した後、乙から資材置場、駐車場として乙地を賃借。乙地について、借地法の適用を否定)
 3 隣接地を当該借地の借主が所有している場合
 (6) 東京地判平2・6・27判タ751・139(借地とこれに隣接する自己所有地とを自動車教習所の敷地として使用しており、教室、事務所等は自己所有地上にあるが、借地上にもわずかながら車庫が存在する事案で、当該借地について借地法の適用を肯定)
 4 上に見たよおうに、(1)(2)(4)の判例は借地法の適用を肯定し、(3)は、借地法の適用はないとしつつも、借地権の存続期間につき借地権の適用がある場合と同様の結論を採ったものである。このうち、(1)ないし(3)は同一人から当該借地と隣接地を借りている場合であり、(4)は該当借地の貸主と隣接地の貸主とが異なる場合である。そして、当該借地の利用状況に観点から見れば、公道への通 路等として利用されている事案が(2)(4)であり、隣接地上の建物で営む事業のための荷揚場、資材置場、駐車場等として利用している事案が(1)(3) である。
 これに対し、(5)は、当該借地の貸主と隣接地の貸主とが異なる場合に、隣接地上の建物で営む事業のための資材置場、駐車場として当該借地を利用している事案につき、借地法の適用を否定したものである。
 なお、直接には建物保護法による対抗力の有無が問題とされるのであるが、最三判昭40・6・29民集19・4・1027、本誌419・24の事案も、本件の参考になると思われる。すなわち、上判決は甲所有の土地(隣接地)を無償で借り受け、その上に登記した居宅を所有している者が、乙所有の土地(当該借地)を上居宅の庭として使用しているという事案において、当該借地の賃借権は、庭として使用する権利であって、建物保護法一条にいう「建物ノ所有ヲ目的トスル土地ノ賃借権」には該当しないとしたものである(本判決については、蕉山巌・最判解民昭40・219をを参考にされたい。)。
五 ところで、当該借地上に全く建物は存在せず、隣接地上の建物を利用するために当該借地を賃借したような場合であっても、その賃貸借契約の主たる目的が建物所有にあるといえる場合があることは否定できない。特に、当該借地と隣接地とを返還すれば隣接地の建物所有の目的をたっすることが不可能叉は著しく困難になるような関係にあり、貸主も当該借地の返還を受けることが容易ではないことを受忍しなければならないような状況にあるときは、建物所有の目的を肯定しやすいといえよう。
 しかし、借主側の事情だけで、建物の存在しない土地の賃貸借に借地法の適用を肯定することは、貸主に予想外の不利益を与える恐れがある。例えば、一個の独立した賃貸借契約で駐車場として賃貸したのに、借主の自己所有地である隣接地上の営業用建物(レストラン、喫茶店など)と一体として利用されることにより、その目的が「建物ノ所有」となるというのでは、借主保護に偏りすぎ、貸主の利益を軽視していると批判を免れないろう。また、借地法7条の関係でも問題が生じる。本件の上告論旨でも指摘されているが、隣接地上の建物の構造に対して、当該借地の所有者が異義を述べる事ができるかどうかは疑問であり、貸主の全く関与することができない事情で借地権の存続期間が延長されるというのであれば、いかにも不合理な事態といえよう(本件でも、Xは、昭和48年に園舎が堅固な建物に建て替えられたとして、借地法7条の適用を主張していた)。
 本件は、隣接地が当該借地の借主の自己所有地という事例であり、公刊された事例も前記(6)が見られるだけでありが(しかも、(6)は、当該借地の一部にも建物が存在しているという、やや特殊なケースである)、当該借地と隣接地とを同一人から賃借している場合などと比べると、建物所有目的の存在を肯定することは必ずしも容易ではないように思われる。
六 本判決は、前記のとおり、本件土地がXの幼稚園経営の観点からすれば園舎敷地と不可分一体の関係にあるという、言わば借主側の事業運営上の必要性をもってだけをしては、本件賃貸借が建物所有を目的としているとは認められないとしたものであり、借地法1条の文理に忠実な解釈態度を示したものということができる。本件のように当該借地の借主が所有しているという事案において、どのような場合に建物所有目的があるといえるかは、本判決の説示からすれば、少なくとも当該借地の借主が所有それ自体のために使用されているという関係にあり、かつ、貸主がそのような使用を了承して賃貸していることが必要であろう。具体的にどのような場合がこれに当たるかは今後の判例の集積を待つほかないが、例えば、自己所有上に建物を建設するに当たり、建物の敷地として建ぺい率の基本とするために当該借地を賃借したような場合や、建物の存在する隣接地と公道とを結ぶ通 路として使用そるために当該借地を賃借したような場合には、当該借地が建物の所有それ自体のために使用されていると見る予知があると思われる。
 本判決は、一つの事例判例であるが、先例の乏しい分野について最高裁の新判例として、実務の参考になると思われる。
《参照条文》

借地法1条

 
《当事者》 上告人

T.T

  上訴訟代理人弁護士

西垣 義明

  被上告人

学校法人H学園

  上代表理事 H.H
  上訴訟代理人弁護士 S.J
    K.Y
    T.D
【主文】
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
【理由】
上告代理人西垣義明の上告理由第一及び第二について
一 本件訴訟は、被上告人が上告人に対して原判決別紙物件目録記載の各土地(面 積合計1695.86平方メートル。以下「本件土地」という。)につき賃借権を有することの確認を求め、上告人が反訴訟請求として、本件土地の賃貸借の終了を理由にその明け渡し等を求めるものであるが、原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1、被上告人の代表であるH.Hは、本件土地の南側に隣接する同人の土地(面積733.87平方メートル。以下「園舎敷地」という。)において幼稚園を経営していたところ、周辺に団地が造成されるなどして園児の増加が見込まれたため園舎を増設することにしたが、これにより幼稚園の運動場がなくなるため、その用地として、上告人の父であるT.Kから本件土地を賃借した。(以下、これを「本件賃貸借」という。)本件賃貸借の契約締結の時期は、昭和41年5月ころ以降の日である。Hは、賃借後、自己の費用により本件土地を幼稚園の運動場として整備し、これを園舎敷地と一体的に使用してきた。
 その後、昭和48年に被上告人が設立された本件土地の賃借権を継続し、昭和51年にT.Kが死亡して上告人が賃借権を承継し、賃貸人の地位 を承継した。また、被上告人は、昭和48年3月、園舎敷地に鉄骨陸屋根2階の新園舎(床面 積611.22平方メートル)を建築した。
 2、本件賃貸借の成立に当たり、権利金等の授受された形跡はなく、T.KとH.Hとの間において昭和44年3月26日に作成された土地賃貸借契約公正証書によれば、本件賃貸借の期間は2年とされていた。その後、昭和49年3月29日、本件賃貸借の期間を昭和51年3月27日までとする土地賃貸借公正証書が作成され、さらに、昭和55年2月7日には期間を昭和59年4月4日までとするする調停が、昭和59年10月11日には、期間を平成元年3月31日までとする調停がそれぞれ成立し、これらにより本件賃貸借の更新がそれぞれ成立し、これらにより本件賃貸借の更新された。なお、昭和55年2月7日の調停成立の際には、本件賃貸借の期間を昭和59年4月4日までと定めるものの、その時点で双方話し合いの上更新することに異議がない旨の念書が被上告人に差し入れられた。
 3、被上告人の幼稚園の園児数は、昭和49年以降増加し、昭和52、3年ころまでには12クラス、980名であったが、その後減少し、平成2年当時は7クラスであった。文部省令等により定められている幼稚園設置の基準によれば、12クラスの場合に必要な運動場の面 積は1120平方メートル、7クラスの場合は720平方メートルである。
ニ 原審は、事実関係の下において、本件賃貸借は、本件土地の上に建物を所有することを目的とするものではないが、隣接地の園舎敷地における建物所有の目的を達するためにこれと不可分一体の関係にある幼稚園運動場として使用することを目的とするものであるから、借地法の主旨に照らし、同法一条にいう「建物所有を目的とする」物というべきであるとし、本件賃貸借がされた当時、園舎は木造2階建ての建物であったから、その存続期間は同法2条1項により30年となるところ、原審の口頭弁論終結時までに期間が満了していないことが明らかであるとして被上告人の本訴請求を認容し、上告人の反訴請求を棄却すべきものと判断した。
三 しかしながら、原審の判断は是認することができない。その理由は次の通りである。
  原審の確定した事実関係によれば、本件賃貸借の目的は運動場用敷地と定められていて、上告人と被上告人との間には、被上告人は本件土地を幼稚園の運動場としてのみ使用する旨の合意が存在し、被上告人は、現実にも、本件土地を上以外の目的に使用したことはなく、本件賃貸借は、当初その期間が2年と定められ、その後も、公正証書叉は調停により、これを2年叉は4年ないし5年と定めて更新されてきたというのであるから、上のような当事者間の合意等及び賃貸借の更新の経緯を照らすと、本件賃貸借の、借地法1条にいう建物の所有を目的とするものではないというべきである。なるほど、本件土地は、被上告人の経営する幼稚園の運動場として使用され、幼稚園経営の観点からすれば隣接の園舎敷地と不可分一体の関係にあるということができるが、原審の確定した事実関係によれば、園舎の所有それ自体のために使用されているものとはいえず、また、上告人においてそのような使用を了承して賃貸していると認めるに足りる事情もうかがわれないから、本件賃貸借をもって園舎所有を目的とするものということはできない。
 以上と異なる原審の判断には、借地法1条の解釈適用を誤った違法があり、原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点の論旨は理由があり、上告人のその余りの論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れず、さらに審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻しすることとする。
 よって、民訴法407条1項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 三好 達 裁判官 大堀誠一 小野幹雄 高橋久子 遠藤光男)
 上告代理人西垣義明の上告理由
 
第一、原判決は、本土地賃貸借の目的について認定判断を誤り、ひいては借地法の解釈適用を誤ったものであって、この違法は、原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
 一、まず、原判決は、借地法1条にいう「建物の所有を目的とする」ものでないことが明白な「運動場敷地」まで無理な拡張解釈をなして同法1条にいう「建物の所有を目的とする」ものというべきであると結論づけている違法が存在する。
 同法1条の「建物の所有を目的とする」とは、その借りた土地上に主として建物を築造し、これを所有する場合をいうのであって、同土地上に建物を築造、所有する場合であってもそれが借地使用の従たる目的にすぎないときは、該当しないのであって(最高裁判所昭和42年12月5日最民21・10・2545)判例にも違背する。
 ニ、本件土地の賃貸借契約は、文言上「運動場敷地」と明らかに明記され、公正証書契約にて締結しているものであって、被上告人はもとより誰もが、借地法の適用なき土地の賃貸借契約で2年毎の更新に応じてきたものである。
 三、上告人としても「運動場敷地」として貸すものであり借地法の適用なきものとして賃貸借当時に権利金等も授受しないで賃貸したものであって上告人のこのような事情も十分考慮されなければならない(東京地方裁判所昭和45年2月26日判夕51・298)。
 四、一般に今まで貸地に対し借地法の適用の有無が問題になった事案の大部分が、貸した土地に附属的な建物を建てた場合に借地法の適用ありや問題になったもので、例えばゴルフ練習場の附属建物、バッティングセンターの附属建物、ゴルフ場のクラブハウス等でいずれも借地法の適用ないと判断されている(最高裁判所昭和50年10月2日判時797・103)。
 五、本件土地については、借地上に附属建物を建てたため借地法の適用ありや問題になった事案ではない「運動場敷地」を「運動場」として借用使用している事案であって投下資本もかかっていないものでもともと借地法の適用ありや否やの議論すらない明らかに借地法の適用なき事案である。本件事件も被上告人からさらに5年延長してもらいたいとの申出に対し、仮換地処分により他の場所に移動するので、上告人としてはこの機会を逸しては返還を受けにくいため更新を拒絶し、裁判になったものであるが、もともと被上告人自身も借地法の適用があるとは思っていなかった事案である。
 六、借地法の適用があるためには、貸した土地上に建物を建てるという前提が最低条件として必要である。
 もし、斯様に解しなければ、借主の所有地の建物の築造、建替えに貸した土地(借地)の存続期間等左右され不都合なことがおこりうるのである(借地法7条等)。
 しかも、賃貸人おいて建物の築造、建替えを借地人の所有地であるため止める等一切異議もいえないことから不合理なことは明らかである。
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